東京地方裁判所 昭和37年(ワ)3622号 判決 1963年1月18日
判 決
神奈川県高座郡座間町入谷一、五四八番地
原告
市川復蔵
右訴訟代理人弁護士
広瀬功
東京都北区豊島二丁目四番地
被告
埼玉興業株式会社
右法定代理人支配人
喜瀬貞雄
右当事者間の損害賠償請求事件についてつぎのとおり判決する。
主文
1 被告は、原告に対し三五二、三九〇円および昭和三七年五月二六日以降右支払ずみにいたるまでの年五分の割合の金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする
3 この判決は、主文第一項に限り、仮りに執行することができる。
事実
原告訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決および仮執行の宣言を求め、その請求原因として、つぎのとおり述べた。
一、原告は、昭和三六年七月二九日午前一〇時一〇分頃東京都中央区晴海町所在小野田セメント株式会社工場入口附近の道路において軽自動二輪車にのつて西進中訴外黒沢利雄の運転する大型貨物自動車(埼一―す―五一三六号)に激突されてはねとばされ、右腓骨々頭骨折等の重傷をうけた。
二、この傷害によつて、原告は、六九日間その職業を休んで医師の治療をうけ、つぎのとおり損害をうけた。
1 治療費の支払 二一、〇〇〇円
2 右傷害により原告は、事故後直ちに救急病院である栗田外科病院(中央区月島通二の二所在)に入院し、更にその後昭和三六年一〇月五日まで岡村医院(新宿区水道町二四番地所在)で治療をうけ、その間全く仕事をすることができず、休業した。当時原告は多数の職人を伴れて訴外三晃株式会社と同東海建鉄株式会社とで鉄骨建物の工事に従事し、給料として前者から月額六万円後者から月額四万円の支給をうけていたが、右休業のためその支給を全くうけることができなかつた。したがつてこの休業した六九日間の給料二三万円は原告のうべかりし利益の喪失による損害というべきである。
3 通院用等車賃の出費 一、三九〇円
4 この傷害によつて原告は精神的肉体的に多大の苦痛をうけたが、現在でも右肩及び右膝に痛みが残つており、筋肉労働に少からぬ支障をきたしている。この慰藉料は到底金銭に見積ることをえない程大きいと思われるが、少くとも一〇万円は下らないものと考える。
三、訴外黒沢利雄は、被告に雇われ、被告のために砂運搬のために前記貨物自動車を運転している際にこのような事故を惹き起したのであるから、被告はこれによつて原告の身体に加えられた傷害によつて生じた損害についてその賠償をすべき義務を負うものといわなければならない。
四、そこで、原告は被告に対し前記損害の賠償として三五万二三九〇円およびこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和三七年五月二六日以降右支払ずみにいたるまでの年五分の割合の遅延損害金の支払を求める。
被告代理人は原告の請求を棄却する旨の判決を求め、答弁として、「請求原因第一項の事実は認めるが、同第二項の事実は争う。」と述べた。
立証(省略)
理由
一、請求原因第一項の事実(事故の発生および原告の受傷)は当事者間に争がない。
二、右事故による傷害によつて原告がうけた損害について判断するに、
1 (証拠―省略)を合せ考えれば、原告は右傷害を治療するため治療代として二一、〇〇〇円の支払を余儀なくされたことを認めることができ、反対の証拠はない。
2 (証拠―省略)を合せ考えれば、原告は前記傷害をうけた当時多数の職人を伴れて訴外三晃株式会社と同東海建鉄株式会社とで鉄骨建物の工事に従事し、給料として前者から月額六万円、後者から月額四万円の支給をうけていたが、前記傷害治療のため受傷の日から昭和三六年一〇月五日まで六九日間このことがなければ、就労可能の筈であつたのに稼働を妨げられ、給料二三万円の利益をうしなつたことを認めることができ、格別反対の証拠はない。
3 (証拠―省略)によれば、原告は受傷後通院のため自動車賃として一、三九〇円の支払をしたことを認めることができ、反対の証拠はない。
4 (証拠―省略)によれば、原告が本件事故によつてうけた傷害は、左第一中手骨骨折、右腓骨骨頭骨折、右肩甲部打撲症および右肘関節部擦過傷であつて、これがため原告は昭和三六年七月二九日から同年一〇月五日まで前記岡村医院で治療をうけたことを認めることができる。この事実に前認定の各被害事実および(証拠―省略)によつて認めることができる原告が現になお跛をひき、右肩がわるいので物を投げたり、ハンマーを振れなくて困つている事実を合せ考えるときは、原告がうけた精神的苦痛は甚しく、その慰藉料は一〇万円をもつて相当と考える。
三、請求原因第三項(被告の責任事由)の事実は当事者間に争がない。そうであつてみれば、被告は自動車損害賠償補償法三条一項但書所定の免責事由を主張立証しないかぎり、同項本文の規定によつて前記傷害によつて原告がうけた損害を賠償すべき義務あること明らかである。そして、被告は右免責事由について何らの主張も立証もしない。
四、以上のしだいであるから、被告は原告に対し前記損害の賠償として金三五万二三九〇円およびこれに対する本件訴状送達の翌日であることが記録上明かな昭和三七年五月二六日以降右支払ずみにいたるまでの民法所定の年五分の遅延損害金を支払う義務あること明かであつて、これが支払を求める原告の請求は理由があるから、正当として認容し、訴訟費用の負担について民訴八九条の規定を、仮執行の宣言について同一九六条一項の規定を適用して主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第二七部
裁判官 小 川 善 吉